俺様副社長に娶られました



明くる日の日曜日は、創平さんが運転する高級車に乗って午前中の早い時間にマンションを出た。
朝食の最中に「今日は実家に行く」と告げられて、すごくふわふわに焼けたオムレツの味が途中から全然しなくなった。

天川のおじさまには小さい頃から何度も会っているけれど、ご自宅にお邪魔するのは初めてだし、結婚が決まってからお会いするのは初となるので緊張してしまう。

北極星を紙袋に入れて持ち、ぎこちない動きで助手席に乗った。
粗相をしないように注意しなきゃと必死で自分に言い聞かせているわたしのきゅうきゅうとした心情など露知らず、創平さんは滑らかにハンドルを操作する。

しばらく車を走らせ、郊外の住宅街に入った。自然豊かな場所で、公園ではまだ少し肌寒いけれど春の陽射しの中、親子連れが散歩をしたり遊具で遊んでいるのが見える。
春の花がすごく綺麗だな、と思って窓の外を流れる風景に目を奪われていたら、創平さんが言った。


「もともと親父の実家のがこっちなんだ。俺が小学生のときに母親が病気になって、空気の良いところに住もうって家族で話し合ってここに家を建てた。当時はまだこんなに拓けてなかったんだけど」


区画整理で近年人気の街として有名になり、戸建てやマンションも多く立ち並ぶようになったらしい。
一際大きな門構えの一軒家の前で停車した。


「着いたぞ」
「……」
「沙穂?」
「あっ、はい!」


良く手入れされた広い庭園に囲まれた旅館のような日本家屋に圧倒されていたわたしはハッとしてシートベルトを外す。


「おじさまは、おひとりで住んでらっしゃるのですか?」


門から玄関までの長い石畳の道を歩きながら、わたしは創平さんに聞いた。


「ああ。家事を手伝ってくれるヘルパーが週に何度か来てくれてるけど」
「そうなんですか」
「気楽なやもめ暮らしだろ」
「はあ」


やもめってなんだろう、と思いながら曖昧な返事をすると、玄関のドアが開いておじさまが出て来た。


「沙穂ちゃん、いらっしゃい。よく来てくれたね」
「おじさま、ご無沙汰しております。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません」
「そんな四角ばった言い方しなくてもいいから。さ、入って」


柔和に微笑む創平さんのお父さまは小柄でふくよかな体型で、人当たりも穏やかで、外見のスタイルも漂う雰囲気も正直創平さんとあまり似ていない。
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