俺様副社長に娶られました
「あの、これ、うちの北極星なんですけれども」
「おお、ありがとう。お父さんによろしく伝えてね」


わたしが差し出した紙袋を、おじさまは鼻歌交じりで持ちながら仏間に移動した。


「もともと母親が好きだったんだ」


わたしの後ろに立っていた創平さんが、北極星を仏壇にあげるおじさまを見て言った。


「そうだったんですか……」


仏壇に置かれた写真には、黒くて艶のある長い髪の毛の、とても美しい女性が写っている。涼しげな目元や、すっと整った鼻梁から見て創平さんはお母さま似のようだ。

わたしもお線香をあげさせてもらうことができた。
創平さんのお母さまにご挨拶ができて、本当に良かった。

それからキッチンでお茶を淹れるお手伝いをして、わたしたちは庭園が見渡せるリビングに移動した。


「北極星は私と妻の思い出のお酒なんだ。一緒に居酒屋を切り盛りしていた日々も、たくさんの思い出が詰まってる」


おじさまは目を細め、懐かしむように言った。


「北極星はお水の甘さがお米に合ってるんだよね。水由来の柔らかさ、お米本来の旨味、そして程よい酸味のハーモニーが素晴らしい。飽きのこない澄んだ味わいで、優しいキレはどんどん飲みたくなる。どこに出しても評判がいい」
「ありがとうございます」


わたしは恐縮し、深く頭を下げる。


「居酒屋でも大人気だったし、事業を手広くやるようになってからも会合の席にこの北極星があれば、妻がそばで応援してくれてる気分になれるんだ。不思議とね、接待も大抵うまく進むんだよ」


おじさまと話す時間は終始和やかだった。

おじさまとわたしが会話している最中、創平さんは静かにお茶を飲んでいた。
創平さんもお母さまと過ごした日々を思い返しているのかなと思ったら、なんだか切ない気分になった。

おじさまにまた遊びに来る約束をして、お昼前にわたしたちは神社に向かった。
そこは、おじさまとおばさまの結婚式や厄払い、毎年の初詣、創平さんのお宮参りや七五三など、天川家でお世話になってる神社だそうだ。

鮮やかな真っ赤な鳥居は厳かな雰囲気が醸し出されていて、池や木々にそよめく神聖な空気に自然と背筋が伸びる。

天川のおじさまは、わたしと創平さんもここでの神前式を挙げることを望んでいる。
結婚式の話がどんどん現実味を帯びてきたことにドキドキしながら歩いていると。
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