俺様副社長に娶られました
「神前式にこだわらなくていいんだぞ」


創平さんの口から出た言葉に、わたしは目を瞬かせた。


「え? どうしてですか?」
「若い子は、ウエディングドレスが着たいものじゃないのか?」


ああ、もしかして気を遣ってくれているのかな?
言いづらそうに眉を顰める創平さんを見て、胸を掴まれたようにキュッとなった。


「わたしはどちらかというと、白無垢に憧れがあります」


それに、ここで神前式できるなんて、天川家の一員になれたみたいで嬉しいもの。

そう思ったとき、創平さんのブルゾンのポケットの中で携帯が振動した。
取り出した携帯は明滅していて、画面には発信者の名前が表示されている。


「悪い」


短く言って、創平さんはスッとわたしの前から離れた。
一瞬しか見えなかったけれど、女性の名前が表示されていたような……。最後に〝子〟が付く名前だった。


「お仕事関係の方かな……?」


待ってみたけれどなかなか戻って来ないので、周囲を散策していたわたしは先にお参りすることにした。手を清め、参道を歩く。振り向いてみると創平さんはまだ電話中だった。
ご神前の前でわたしはお賽銭を入れた。手を合わせ、心の中で呟く。

不束者ですけれども、天川家の立派な一員になれるよう頑張ります。
少し、いやかなり不安はあるんですけど……。

創平さんより八つ下だし、世間知らずで頼りないところばかりだから仕方ないかもしれないけれど、いつもからかわれてばかり。
創平さんに釣り合うとまでいかなくても、隣に居ても恥ずかしくない女性になりたい。


「……いつか、子ども扱いじゃなくて。ちゃんとひとりの女性として見られたいな……」


って。
熱心に願掛けしすぎて神様に図々しいと思われないかしら?
と、不安に駆られたとき。


「俺に、女として見て欲しいのか?」


背後でぷっと吹き出す声がして、わたしは拝んだままの体勢で静止した。
よりによって、一番恥ずかしい最後の心の声を聞かれてしまった……。


「そ、創平さん……っ、盗み聞きなんて悪趣味です」
「聞こえるような声で言うな」


わたしはコマ送りみたいな妙な動きで振り向く。
すると目に入ったのは、口元を指先で引っ掻くように抑え、まだ笑いをこらえている創平さんの姿だった。
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