俺様副社長に娶られました
「創平くんが婚約者を連れて行くって言うからてっきり私、こないだ一緒に来たあの茶髪の美人さんが来るものだとばかり思ってて。あれ? って思って頭が働かなくなっちゃってね。変に思われたかしら? ごめんなさいね」


入ろうかどうしようかタイミングを見計らい損ね、足がすくむ。

こないだ一緒に来てた?
茶髪の、美人さん……?

叔母さんが微妙な面持ちになった理由はわかったけれど、ちっともすっきりなんてしない。
むしろ胸の中で霞みがかったもやもやがもっと広範囲になって、更になにかがつっかえたみたいに苦しい。


「__沙穂?」


創平さんの声に、わたしはビクッと肩を跳ね上がらせた。
半開きの扉の前に立ち尽くしていたわたしは、じりじりとつま先を滑らせて個室内に足を進める。


「あ、お部屋、ここで合ってるかなってわからなくなってしまって……」


あたかも今戻って来たかのように取り繕って、わたしは焦って言い訳みたいに言葉を紡いだ。


「昔の造りで増改築してるから。迷路みたいで迷っちゃったでしょ?」


かばうように言って、叔母さんがわたしに笑顔を向ける。対してわたしはうまく笑い返せているかどうか、わからなかった。

きっと張りぼての、いびつなものだったに違いない。
叔母さんの言葉が何度も頭の中でリフレインして、心臓は早鐘を打ったように騒がしくなった。




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