俺様副社長に娶られました
どうしてその可能性を今まで考えなかったんだろう。
その理由は単純明快。思いつかなかったのだ。
わたしは恋愛経験がないから、自分のことばかりでそこまで考えが至らなかった。
創平さんにだって、付き合っている彼女がいたのかもしれない。
でも、天川のおじさまのたっての希望で川原酒造を救うために、わたしと政略結婚することになってしまった。
『創平くんが婚約者を連れて行くって言うからてっきり私、こないだ一緒に来たあの茶髪の美人さんが来るものだとばかり思ってて。あれ? って思って頭が働かなくなっちゃってね。変に思われたかしら? ごめんなさいね』
その彼女は、叔母さんの料亭に連れて行くということは家族や親戚に紹介しても差し支えない存在なのだろう。
引っ越して来た日にお父さんに、わたしを必ず大切にすると言ってくれたけど、創平さんにとっての〝わたし〟とは、ビジネスで政略結婚する婚約者以外のなにものでもなくて、大好きな彼女とか、愛する奥さんというかけがえのない存在とは違うから。
創平さんにそういう存在の人がいても、わたしが口出しすることじゃない……。
「沙穂、天川さんのご実家に行って来たんだって?」
なかなか減らないお弁当箱とにらめっこしていたわたしは、弾むようなお母さんの声に驚いて顔を上げた。
「え、どうして知ってるの?」
「だって天川さんから電話があったから。素敵なお嬢さんがうちにお嫁に来てくれるなんて、とっても光栄だって仰ってたわよ」
キッチンでお母さんはるんっと一回転して、やかんの中で沸騰したお湯を急須に注ぐ。
お昼の休憩時間は、実家のダイニングテーブルで自分で作って来たお弁当を食べているんだけど、今日はあまり食欲がない。
湯気が上る淹れたての熱いお茶を、お母さんはわたしの前に置いた。
「ありがと」
「で、料亭天川で食事したんだって?」
湯呑を取ろうとした手がピクリと止まる。
「あそこ、天川さんのご実家なのよ。趣があって素敵なところよね」
「お母さんも行ったことあるの?」
「昔一度だけ、お父さんと一緒にね。また行きたいわ〜」
真向きに座り呑気にお茶を啜っているお母さんを一瞥し、わたしはお弁当箱を閉じた。
「それで、結納の日取りはもう決めたの? 入籍は? 結婚式の会場は? ほら、お母さんたちもいろいろ準備するものがあるから」
その理由は単純明快。思いつかなかったのだ。
わたしは恋愛経験がないから、自分のことばかりでそこまで考えが至らなかった。
創平さんにだって、付き合っている彼女がいたのかもしれない。
でも、天川のおじさまのたっての希望で川原酒造を救うために、わたしと政略結婚することになってしまった。
『創平くんが婚約者を連れて行くって言うからてっきり私、こないだ一緒に来たあの茶髪の美人さんが来るものだとばかり思ってて。あれ? って思って頭が働かなくなっちゃってね。変に思われたかしら? ごめんなさいね』
その彼女は、叔母さんの料亭に連れて行くということは家族や親戚に紹介しても差し支えない存在なのだろう。
引っ越して来た日にお父さんに、わたしを必ず大切にすると言ってくれたけど、創平さんにとっての〝わたし〟とは、ビジネスで政略結婚する婚約者以外のなにものでもなくて、大好きな彼女とか、愛する奥さんというかけがえのない存在とは違うから。
創平さんにそういう存在の人がいても、わたしが口出しすることじゃない……。
「沙穂、天川さんのご実家に行って来たんだって?」
なかなか減らないお弁当箱とにらめっこしていたわたしは、弾むようなお母さんの声に驚いて顔を上げた。
「え、どうして知ってるの?」
「だって天川さんから電話があったから。素敵なお嬢さんがうちにお嫁に来てくれるなんて、とっても光栄だって仰ってたわよ」
キッチンでお母さんはるんっと一回転して、やかんの中で沸騰したお湯を急須に注ぐ。
お昼の休憩時間は、実家のダイニングテーブルで自分で作って来たお弁当を食べているんだけど、今日はあまり食欲がない。
湯気が上る淹れたての熱いお茶を、お母さんはわたしの前に置いた。
「ありがと」
「で、料亭天川で食事したんだって?」
湯呑を取ろうとした手がピクリと止まる。
「あそこ、天川さんのご実家なのよ。趣があって素敵なところよね」
「お母さんも行ったことあるの?」
「昔一度だけ、お父さんと一緒にね。また行きたいわ〜」
真向きに座り呑気にお茶を啜っているお母さんを一瞥し、わたしはお弁当箱を閉じた。
「それで、結納の日取りはもう決めたの? 入籍は? 結婚式の会場は? ほら、お母さんたちもいろいろ準備するものがあるから」