俺様副社長に娶られました
「寝れば治る」
「えっ……、熱は?」
「いい、放っといてくれ」


おそらくよっぽど高い熱なのだろう。
ぶっきらぼうに言った創平さんは辛そうに、なだれ込むように部屋に入った。


「大丈夫ですか⁉」


とっさに支えようとしたわたしの手を制し、パッと払う。


「近づくな、平気だから」
「で、でも……」


怯んだわたしを追い払うような仕草をして、創平さんは部屋のドアを閉めてしまった。


「創平さん……」


一昨日から辛そうだった。
ただでさえ仕事が忙しくて疲れも蓄積されてたのに、週末はわたしのために空けてくれて無理をさせたんじゃ……。


「……よしっ」


近づくなと言われても、同じ家に住んでる病人を放っておくなんてできない。
たとえ迷惑がられても、一緒に暮らしてるんだからせめてなにか役に立つことがしたい。

わたしは着替えると、一番近くのコンビニに走った。
頭を冷やす枕と、額に貼る冷却シートと、それからスポーツドリンク、解熱剤、あと家にあるかわからないので体温計を買ってすぐにマンションに戻った。

冷やす枕は冷凍庫に入れ、冷却シートと飲みやすいストロー付きの容器に移したスポーツドリンクを持って、創平さんの部屋をコンコンと控えめにノックする。


「勝手にごめんなさい、お邪魔します……」


誰も見ていないのにぺこりと一礼して部屋に入る。真っ暗な部屋で、創平さんはベッドに横たわっていた。

わたしは床に置かれたジャケットをハンガーにかけ、創平さんの寝顔を覗き込んだ。
そっと額に触れると、物凄く熱かった。
さすが勝手に脇の下に体温計を挟むのは気が引けたので、スポーツドリンクと一緒に枕元に置いた。


「創平さん、失礼します」


額に冷却シートを額に貼ると、創平さんは眉間の皺を深くしたけど起きなかった。
洗面所から持ってきたタオルで額の汗を拭く。開けている胸元まで、丁寧に。

冷凍庫に入れておいた枕がよく冷えた頃、そおっと部屋に戻って創平さんが寝返りをうったすきにうまく後頭部の隙間にスッと滑り込ませることが出来た。

明け方になって、創平さんの寝顔は少し穏やかになった。

空が白んできた頃には炊飯器の中の甘酒がいい感じに発酵していたので、マグカップに注いでわたしは再び創平さんの部屋に入った。
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