俺様副社長に娶られました
それにもし、わたしの疑いが当たっていたとしても……。

わたしには、どうしようもない。


「創平さん、今日は本当にすみませんでした!」


一日の勤務を終え、帰宅してご飯を作っていると、珍しく早い時間に創平さんが帰宅した。
出迎えた玄関での開口一番、ガバッと頭を下げたわたしに、創平さんは億劫そうに息を吐く。


「別になんともなかったんだから、謝る必要はない」


いつものように歩きながらジャケットを脱ぎ、リビングのソファの背もたれにかけた創平さんは、くんくんと鼻を利かせる。


「ケチャップの匂いがするな」
「今夜はミートソースを煮込んでみたんです。パスタですけど、食べますか?」
「食う」


短く言って、寝室で着替えて来た創平さんは早速リビングにあぐらをかいた。
鍋で作り置き用に大量に煮込んで置いて良かった……。

パスタを茹で、完成したミートソースをかけるとレタスとコーンで簡単なサラダを作り、わたしはふたり分をテーブルに運んだ。


「それより、いつもながらによくあんなベタなドジを踏めるなと感心するくらいだよ」


……意地悪な言い方。

隣り合って座り、わたしはパスタを頬張った。

でも、良かった。
いつもの創平さんだ。もう避けられてないみたい。


「よそ見でもしてたのか?」


ホッと安堵していると真横から視線を向けられたので、わたしはパスタを咀嚼して飲み込むとお水を一口飲んだ。


「いえ、ちょっと……考え事というか」


言葉を濁し、そっぽを向く。
気を取り直して二口目を口に運ぶわたしを、創平さんはまだ眺めている。

なんだろう。
居心地が悪くて、わたしはちらりと創平さんを横目で見た。すると。


「こないだキスしたせいか? よそよそしいのは」
「!」
「起きてたんだろ」


事も無げに悠長に、創平さんはわたしを驚かせた。


「き、気づいてたんですか⁉」
「まあ、気づくよ。呼吸の感じとかで」


片手に持ったフォークを持ったまま静止したので、巻かれたパスタはまるで食品サンプルかのようだった。
わたしたちふたりを包む空間だけ、時が止まったみたい。
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