俺様副社長に娶られました
「……どど、どうしてあんなことを……」
「どうして、って。したかったから」


飄々と言った創平さんは、サラダを口に運ぶ。


「し、したかったらするんですか? 創平さんはキス魔、なのですか⁉」
「うるさい。キスくらいで騒ぐな」


ぴしゃりと一蹴し、創平さんは水が入ったグラスを傾ける。

キスくらい、って……。

それは、肯定ってことですか?
ほかの女性とも……したかったらするんですか?


「そんなことより今日、沙穂のお父さんに渡した事業計画書のことだけど」


〝そんなこと〟⁉

と、聞き返したいのは山々だったけれど、わたしは口をつぐんだ。


『副社長がなにより大切にしているのは仕事なんです。』


越谷さんの言葉が、頭の中で警告音のように響いたからだ。


「今後正式に、穂花さんに川原酒造の社員になってもらいたい旨を伝えてきた」


グラスをテーブルに置いて創平さんが言った。


「え? お姉ちゃんに……?」
「ああ。穂花さんは語学も堪能だし、川原酒造の銘柄の海外進出には欠かせない存在になるだろう。川原酒造では今後、顧客を拡大するために蔵見学ツアーを常時催していきたいと思ってる。その対応に一流ホテルでコンシェルジュの経験を積んできた穂花さんはぴったりだ。海外からのお客様も増えるだろうし」
「ツアーの案内と、海外の取引先とのやり取りを、お姉ちゃんが……」


たしかに、それが一番いい。
お姉ちゃんに合ってるし、慎ちゃんも喜ぶだろうな、と思って嬉しくなったとき。


「ツアーがないときは直売所やホームページからの注文の発送を手伝ってもらう。女将さんもまだまだ現役で働いてくれるって言うし、いずれ設備投資して四季醸造が可能になれば蔵人たちで手分けしてそういう事務仕事もできるだろう。まあ、穂花さんが納得してくれればの話だが」


口元に運ぼうをしたパスタが絡んだフォークを、わたしは再びお皿に置いた。

直売所の仕事も、お姉ちゃんとお母さんがやるってこと?
でも……。
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