俺様副社長に娶られました
高校生までは野球をやってて坊主だったのに、今は軽くうねった茶色いヘアスタイルも、服装も年相応ですごくお洒落だし、こんな子が大学にいたらきっと女の子に人気なんじゃないかな、と勝手な幼馴染みの姉目線で思った。


「泰生くん、どうしたの? こんなところで」
「沙穂ちゃんこそ」
「わたしは……ええと……」


口籠っていると、強まってきた雨脚に目を細めた泰生くんがアーケードの方を指差した。


「時間あるならちょっと座って話さない?」
「え?」
「とりあえず、これ被って」


そして着ていたシャツを脱ぐと、わたしの頭にばさっと被せる。


「い、いいよ! 泰生くんが濡れちゃうし!」
「平気平気! 男は女の子より丈夫だからさ」


頼りがいのあるセリフをさらりと言って、泰生くんはニッと口角を上げる。

笑顔の中にはまだ幼さというか、昔の弟キャラの泰生くんの面影が残ってる。けれども女の子への対応は、大人の男性みたいにスマートだ。


「ふっ、ふふふ」
「沙穂ちゃん、なんで笑うの? ここで」
「だって、あの小さかった泰生くんがすっかり立派な男の人になってるんだもの。見た目も、話すことも、なんか見違えちゃって」


視界を遮っていた、顔に落ちてくる頭に被った泰生くんのシャツを指で摘み上げる。
見晴らしが良くなった世界には、さっきまでの人懐こい笑顔とは真逆の真剣な表情をこちらに向ける泰生くんが映った。


「そうだよ。もう酒だって飲めるし、立派な男だよ」


意味有りげに細められた眼差しに一瞬気圧されたわたしの手首を引っ張り、泰生くんは走り出した。


「えっ、ちょっと待……!」


わたしは足をもつれさせながら、シャツが落ちないように引っ張られていない方の手で抑え、なんとか付いて行く。


「俺、ここでバイトしてんだ」


アーケード通りに面したコーヒーショップの前で歩調を緩め、泰生くんは緑色の看板を見上げた。


「そうなんだ、バイト帰りだったの?」
「うん」


温かい二人分のコーヒーをテイクアウトして来てくれた泰生くんとわたしは、外のベンチに並んで座る。


「沙穂ちゃん大丈夫? 寒くない? ごめんね、店中混んでて」
「全然全然、屋根があるから雨もしのげるしね。コーヒーいただきます」


カップを受け取って、わたしは飲み口の小さな穴の部分に息を吹きかけた。
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