俺様副社長に娶られました
「沙穂ちゃん、結婚するんだって?」
「あ、うん……。布施さんから事情は聞いたよね。今日入籍してきたんだ」
「え! そうなの⁉」
泰生くんは周囲に響き渡るくらいの大声で、ベンチからお尻が浮くくらい飛び跳ねて驚いた。
「泰生くん、うちの蔵で働きたいって言ってくれてるんだって? ありがとね。今後は経営が安定するから川原酒造をよろしくね」
「……なんで、そんな他人事みたいな言い方すんの?」
前屈みになって、コーヒーカップを両手で持った泰生くんはムスッとした表情で言った。
「だって、わたし……もう辞めるんだよね、直売所の仕事」
「え……」
「お姉ちゃんがホテルを辞めて手伝うことになったんだ。お姉ちゃんの方が、なにかと都合がいいからさ」
風でなびく髪を耳にかける。
笑おうとしたけどうまくいかなくて、奥歯を食いしばるような情けない、変な顔になってしまった。
「俺、沙穂ちゃんがいるから川原酒造で働きたいと思ってたんだよ」
太ももに肘を付ける前のめりな角度で泰生くんは、わたしの顔を覗き込むように見てはにかんだ。
「いつか沙穂ちゃんと、じいちゃんが作った酒造好適米で美味しくてみんなから愛される日本酒が造りたいって思ってて……だから大学でも専門の勉強してんだよ」
「た、泰生くん……」
泰生くんの顔つきは外灯に照らされて影が出来て、眉根を寄せる切なげなものから険しい表情に変わってゆく。
「俺、昔から沙穂ちゃんが蔵のことを大好きだって知ってたから、沙穂ちゃんはこの先ずっとあの蔵で働いてるんだって高を括ってた。だから真面目に勉強して大学を卒業して、蔵人として一人前になったら……って悠長に考えてたこと、今すごく後悔してる」
コーヒーカップを隣に置いて、泰生くんは体ごとわたしに向けた。
「今ならまだ引き返せるよ、沙穂ちゃん」
引き締まった顔で真っ直ぐにわたしを見つめる。
「沙穂ちゃんは、そいつが好きなの? 自分の気持ちを押し殺してまで結婚する必要ある? そもそもどうして蔵の再建のために結婚するの?」
矢継ぎ早に質問を繰り出す泰生くんに、目の焦点が合わなくなるのは徐々に顔が近づいて来たからだ。
「あ、うん……。布施さんから事情は聞いたよね。今日入籍してきたんだ」
「え! そうなの⁉」
泰生くんは周囲に響き渡るくらいの大声で、ベンチからお尻が浮くくらい飛び跳ねて驚いた。
「泰生くん、うちの蔵で働きたいって言ってくれてるんだって? ありがとね。今後は経営が安定するから川原酒造をよろしくね」
「……なんで、そんな他人事みたいな言い方すんの?」
前屈みになって、コーヒーカップを両手で持った泰生くんはムスッとした表情で言った。
「だって、わたし……もう辞めるんだよね、直売所の仕事」
「え……」
「お姉ちゃんがホテルを辞めて手伝うことになったんだ。お姉ちゃんの方が、なにかと都合がいいからさ」
風でなびく髪を耳にかける。
笑おうとしたけどうまくいかなくて、奥歯を食いしばるような情けない、変な顔になってしまった。
「俺、沙穂ちゃんがいるから川原酒造で働きたいと思ってたんだよ」
太ももに肘を付ける前のめりな角度で泰生くんは、わたしの顔を覗き込むように見てはにかんだ。
「いつか沙穂ちゃんと、じいちゃんが作った酒造好適米で美味しくてみんなから愛される日本酒が造りたいって思ってて……だから大学でも専門の勉強してんだよ」
「た、泰生くん……」
泰生くんの顔つきは外灯に照らされて影が出来て、眉根を寄せる切なげなものから険しい表情に変わってゆく。
「俺、昔から沙穂ちゃんが蔵のことを大好きだって知ってたから、沙穂ちゃんはこの先ずっとあの蔵で働いてるんだって高を括ってた。だから真面目に勉強して大学を卒業して、蔵人として一人前になったら……って悠長に考えてたこと、今すごく後悔してる」
コーヒーカップを隣に置いて、泰生くんは体ごとわたしに向けた。
「今ならまだ引き返せるよ、沙穂ちゃん」
引き締まった顔で真っ直ぐにわたしを見つめる。
「沙穂ちゃんは、そいつが好きなの? 自分の気持ちを押し殺してまで結婚する必要ある? そもそもどうして蔵の再建のために結婚するの?」
矢継ぎ早に質問を繰り出す泰生くんに、目の焦点が合わなくなるのは徐々に顔が近づいて来たからだ。