俺様副社長に娶られました
額に手のひらをやった創平さんが呆れたような声で言う。


「あ、あれは思考が停止しただけで、ビビッてたわけでは……! それにキスくらいで騒ぐなと言ったのは創平さんです」


必死で弁解しているうちに自分で言ったことの重大さに気づいてパニックになったわたしは、最終的に創平さんに責任転嫁するという荒業に出てしまった。


「いちいち額面通りに捉えんなよ」


創平さんは心底面倒そうに、さも難儀だといった調子で吐き捨てる。


「とにかく、今夜は部屋を取ったから。湯船に浸かって温まれ。髪もちゃんと乾かさないと風邪引くぞ」


そしてくるりと振り向くと、こちらを見もせずに言った。


「はい……すみません……」


お、怒らせてしまった……。

わたしは素直にバスルームに行くと、湿ってベタつく服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びた。まだ春先の肌寒さの中で雨にあたり、体が結構冷えていたことに気づく。

シャワーを終え、髪や服をドライヤーで乾かしてから部屋に戻ると、創平さんがルームサービスを頼んでくれていた。
そう言えば、夕飯まだだったんだ。

軽い食事を済ませると、創平さんは何本か電話をかけ仕事の話を終えて、シャワーを浴びにバスルームに入って行った。
わたしは雨粒が付着して水玉模様になった窓にぴったりと張り付き、ぼんやり外を眺めた。

ベッドはひとつ。
しかも、今日は入籍をした結婚記念日。

意識しないようにしようと心がけても、勝手に心臓がドキドキとうるさくなってくる。
なんとか平常心を保たなければ……と目を瞑って深呼吸していると、創平さんがバスルームから戻って来た。

肩越しに小さく振り向くと、バスローブを羽織った創平さんがタオルで髪を拭いている。
その姿を見て、急激に心音がどくどくいいだした。
同居してから別の部屋で(創平さんは未だに時々リビングで)寝ているから、こういうイレギュラーなシチュエーションはかなり緊張してしまう。


「電気消すぞ」
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