俺様副社長に娶られました
自分の心臓の爆音にばかり気を取られていたわたしは、後ろから声をかけられてビクッとした。


「は、はい」
「おやすみ」


蛍光灯が消え、オレンジ色の温かいダウンライトが灯る。
もそっと毛布を動かす音がして、ちらりと振り向いてみると創平さんは、窓際のわたしに背を向ける格好で寝てしまった。

心臓のドキドキが、やがてボリュームダウンし余韻を残す。
胸騒ぎは、杞憂に終わった。呆気ない。


「……おやすみなさい……」


わたしも小さく隙間をあけて、布団に潜り込む。
こんなに近くにいるのに見事に干渉せず、意識もせず、平静を保ってられるなんて。
わたしに女性としての魅力が全くないのか、それとも迷惑をかけてばかりだからそんな気が起きないとか?

今声をかけたら、もしかしたらすごく欠伸交じりで億劫そうに、殊更鬱陶しげに「なんだよ」って言って振り向いてくれるかもしれない。

でもそれは縁起物に対する最低限の態度であって、わたしへの興味など露ほどもないのだ。
からかったり、謎の不意打ちキスはあったけれど、初めて会ったとき以来、それ以上触れてこない。


『あの……奥様とご一緒ですか?』


あの不本意そうに言った彼女を、傷つけたくないのかな……。

わたしはなるべく肩が震えないように注意して、目を閉じてグッと夜を我慢した。






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