俺様副社長に娶られました
泰生くんの思いは、わたしの慎ちゃんに対する家族同様な信頼感情ではなくて、きゅんと掴まれて、きつく疼いて、自分ではコントロールできない思いが胸を支配してどうすることもできなくてもどかしいっていう、むしろわたしが創平さんに抱いている感覚のような……。


「__沙穂?」


背後から聞こえた声に、わたしはぼんやりと緩慢な速度で振り向いた。


「うわあ!」


サンルームのドアの横に立っていた創平さんは、幽霊でも見たかのような声を上げたわたしを煙たがるような目で見た。


「そんな驚くか? 何回か声かけたんだけど」
「ご、ごめんなさい! お帰りなさい……」


泰生くんのシャツをさっと畳み、三人分の洗濯物を合わせて抱きこむように持って立ち上がる。


「あのっ、今夜は夕食は?」
「食う」


短く答えた創平さんは、時間短縮のためなのかいつものようにジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しながら歩いて自室で着替えをした。

その間、わたしはキッチンでお夕食を温め直す。
最近はもっぱら健康に気を遣ったメニューを心がけている。雑穀米とお野菜、魚はなるべく旬のものを食べるようにしている。お肉も脂身が多い部位ではなく、その日のメニューに合わせてバランスよく調理する。
前はレバーとか、好きだけど下処理の方法がよくわからなかったけれど、調べてレバニラ炒めを作ってみた。飲む機会の多い創平さんにも食べて欲しかったから、早く帰宅してくれて嬉しい。

今後、直売所を辞めて家にいるようになったらお味噌も手作りしてみたい。
食材ひとつひとつの栄養素をもっと知って、レパートリーも増やしていければいいな。

わたしは杜氏にはなれなかったけど、ものを造り上げるという点では共通しているし、なによりお酒は飲めないけれど料理なら自分で作ったものを食べられる、という利点がある。

出したお皿をすべて綺麗に食べ終わった創平さんに、わたしは今日病院に行ったことを話した。
布施さんのことは、今後創平さんも蔵の再建に関わっていくとなれば、いずれ耳に入ることだ。


「お見舞い、ね」


ふう、と息を吐き、ソファに寄りかかって座った創平さんは両腕を組んだ。
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