俺様副社長に娶られました
「で、布施さんの足はどうだったんだ?」
「骨折していて全治三ヶ月だそうですが、お元気そうでした」
「そうか」


うむ、と頷いて、隣にちょこんとで正座するわたしに向き直る。


「今日は、なにもされなかったか?」


スッと手を伸ばし、わたしの頬を撫でる。
かさりとした手のひらの感触が穏やかで心地よくって、心が急に温かくなる。


「あの、引き際悪そうなガキに」
「引き際、って……全然です」


わたしはかぶりを振った。

お見舞いで会ったのは仕方ないにしろ、もしかしたらまたわたしの態度が至らないからだと咎められるかなと少し思ったけれど、違った。


「優しいのは沙穂のいいところではあるけど、ほかの男によそ見させる気はないからな」


頬を手懐けた手のひらを、俯き加減で半分だけ顔を上げたわたしの頭に移動させ、硬直を解くようにポンと撫でる。


「沙穂の夫は、俺だろ?」


いつもはもっと高圧的で、意地悪で強引なのに。
そんな風にいつになく、弱ったような目でわたしを見るなんて、反則。


「……っはい……」


わたしは精一杯、力強く頷いた。
ふっと頬を弛緩させた創平さんの眼差しはひどく優しくて、わたしの見間違いじゃなければ安心したような表情だった。

わたしの夫は創平さんで。
でもそれは、形ばかりの政略結婚だ。

それなのに。
どうして創平さんがホッとしたような顔をするんですか?

頭の中を仕事で支配されてる創平さんの近くに、越谷さんのような綺麗で仕事のサポートもしてくれる女性がいたら、惹かれるのは当然。わたしなんてただの縁起物で、身代わり以上の存在には一生なれない。

それでもわたしは創平さんの一挙手一投足に胸が詰まってときめいたり、恥ずかしくて熱くなったり、軋んで割れるほど痛くなったりする。
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