俺様副社長に娶られました
「ええと……まあ、お洒落だったよ？」
「お食事美味しかったでしょ？」
「う、うん」
「フードペアリングにものすごく凝ってるみたいなのよ。うちの北極星も食中酒として温度を変えながら楽しめるから、いろんな料理に合わせていただくのが楽しいわよね」


酒処天の川は、若者からサラリーマンまで幅広い年代に人気の居酒屋。
お母さんが言うように幅広いペアリングを楽しめるとあって、昨今は食に凝ってる若い女性の客足が伸びているらしい。

名前の天の川にちなんで、プラネタリウムのような幻想的な内装も人気要因のひとつ。
昨夜のわたしも入店したとたん、キラキラとまばゆくライトアップされた店内の星空を見上げ、ほうっと感嘆の溜め息を吐いた。

居酒屋といえばもっと騒がしくて額にネクタイを巻いたお父さんたちがドンチャンしてるイメージだったけれど、それを覆す、お洒落な高級レストランといった雰囲気だった。

酒処天の川を運営している株式会社天川は外食産業を中心に展開している会社で、元々は一軒の居酒屋から始まったのだけれど近年買収合併により事業を拡大し様々な外食企業を傘下にしている。

居酒屋のほかにもカフェやレストラン、カラオケや寿司屋など、国内外に三千店舗以上を展開するまでに急成長していて、自社工場で食材を調達しリーズナブルな提供が可能となっているらしい。

とまあ、ここまでのネットで調べた付け焼き刃な情報だけではなく、ちゃんと自分の目で店舗をたしかめたかったのは、株式会社天川がうちの酒蔵に資金援助を申し出たからだ。

つい数日前、わたしはこの話を聞いた。

うちの酒蔵は人手不足を解消するための設備投資により、資金繰りに困窮している。
仕込みの冬季だけ手伝いに来てくれるおじちゃんたちは酒造好適米という酒造りに使うお米を作っているのだけれど、近年農家の数が減ってしまったので手伝いに来てくれる人の数も比例して減り、お父さんは人手の代わりに洗瓶機や瓶詰機といった機械を導入した。
けれども見通しは甘く、融資は断られ続け、このままでは酒蔵の存続自体危機的な状況だった。

そんなとき、日本を代表する外食チェーンである株式会社天川がうちに手を差し伸べてくれたのは、なにも寝耳に水な話ではなかった。
株式会社天川の社長、天川（あまかわ）創一（そういち）さん、通称天川のおじさまはうちの北極星の大ファンで、なんでも営んでいた一軒の居酒屋で人気の銘柄だったことから接待や商談のお供に選んでくれているらしく、ここまで事業が拡大したことに一役かっていると評価し、験担ぎでご贔屓にしてくださっている。
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