俺様副社長に娶られました
「あの日、沙穂と天川さんとの関係も素敵だなぁって思ったんだ」


わたしと、創平さんとの関係……?


「そ、そんなことないよ」


それは謙遜ではなかったから、スッと自然に口をついて出た。
勘違いも甚だしいと心の中で反抗的に思ったわたしに対し、お姉ちゃんはまるでそんな心中を見透かしたような得心顔で言った。


「当事者じゃわからないかもね。傍から見れば、一目瞭然よ」
「ど、どんな風に見えるの?」
「ふたりがお互いを思いやり、支え合ってるように」


気づけば手がかじかむほど、ずっと強く握っていたティーカップから手を離し、膝に置く。


「……創平さんに彼女とか、ほかに女の人がいたとしても、そう思える?」


わたしたちの関係が素敵だなんて、言える?

ちょっと脅迫めいた、脅しのようなその言葉は、なによりも自分の心を傷つけた。
創平さんに愛されていないという悲劇に、誰より一番落胆しているのはわたしなのだ。


「一生愛されることはないんだよ……?」


傍から見たら支え合って暮らしている普通の夫婦に見えるかもしれないけれど、ふたりの間に愛が溢れたり、感情が行き交ったりすることはない。

それでもいいと思ってこの道を選んだけれど、創平さんへの思いに気づいてしまっているわたしは自嘲気味にふっと笑う。

すると、苺ジュースをストローで啜ったお姉ちゃんは、まるでわたしの悲観になど一切頓着しないという様子でさらっと言った。


「たしかに天川さんくらいの地位に加えてあの端正なお顔立ちともなれば、ほかの女の影がチラつくのも仕方ないような気がするけど。一生愛されることはないってのは、どうしてわかるの?」
「えっ……、だからそれは……」


言いよどむわたしを、お姉ちゃんは仕方がないといった風な呆れた目で見た。


「そんなに今にも泣きそうなくらい思いつめた顔してるってことは、天川さんのことを本気で好きになったのね」


お姉ちゃんは溜め息交じりで言って、椅子の背もたれに背中を預ける。


「一度、腹を割って話せたらすっきりすると思うんだけどなぁ……」


驚くくらい胸に響く。
心が目覚めるようにハッとする。
< 90 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop