俺様副社長に娶られました
話して、いいの……?
わたしの気持ちは、胸に仕舞っておかなきゃならないものなんじゃないの?


「状況が状況だし、不安はあると思うけど。あの日のふたりを見ていたらなぜかうまくいくって確信しちゃうのよね!」


お姉ちゃんは空気を変えるように明るく言って、すくっと席を立った。


「さ! 旬の苺、食べ尽くさないと!」


両手にお皿を持って戻って来たら、ミルクレープとピンクのクリームが可愛いパイ、それからムースとフランベとジェラートが三種類乗っていた。
ギョッとするわたしの目の前で、お姉ちゃんはすべてをぺろりと平らげていた。

ダイニングカフェをあとにする頃には、ふたりとも背中を反らして歩いていた。
今夜のお夕飯は創平さんの分だけでいいかもな……。


「さて、満腹になったことだし、帰って一眠りするか」
「え、寝るの? まだ早いんじゃ……」
「明日早朝からの勤務シフトだからさ。最後まで手を抜かずに頑張らなきゃね」


駅までの道中、お姉ちゃんは活き活きとした顔で嬉しそうに言った。

それはきっと、お姉ちゃんのもうひとつの生活の変化が関係していると思う。慎ちゃんがうちの実家で同居することになったのだ。結婚を見越して。


「沙穂は真っ直ぐ帰るの?」
「ううん、わたしはちょっと行くところがあるから」
「そっか。来週からの引き継ぎ、よろしくね」


駅に着き、足を止めたお姉ちゃんはわたしにきちんと向き合った。


「私、沙穂と天川さんに認められるように頑張るから」
「……ははっ、認めるなんて大げさだよ」
「じゃあね、またビュッフェ行こうね」
「うん」


わたしはお姉ちゃんと駅で別れた。
改札を抜けるまで、あんなに食べたのに軽やかな足取りのお姉ちゃんの後ろ姿を見つめていた。

一流ホテルのコンシェルジュとして働いてきたお姉ちゃんならきっと、直売所の仕事にもすぐに慣れて、将来は杜氏になる慎ちゃんを支える看板女将になるに違いない。


「さすがに食べすぎたなぁ……」


溜め息交じりに呟いて、わたしは入籍したあとで創平さんと一緒に行った商業ビルに向かった。

泰生くんに会ったときより早い時間帯。
青空は、グレーとピンクの薄布を重ねたような幻想的な色合いに変わってきている。
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