俺様副社長に娶られました
「蔵の再建とか、子会社化とか、そういう利害関係なんて取っ払って、純粋に創平さんのことが好きなの……」


たとえ報われなくても、不毛でも、それでもいいって思ってしまうわたしは、どうかしてしまっていると思われるかもしれない。


『沙穂の夫は、俺だろ?』


けれど、これからもそばにいてもいいと認めてくれるなら。


『状況が状況だし、不安はあると思うけど。あの日のふたりを見ていたらなぜかうまくいくって確信しちゃうのよね!』


たとえほんの一ミリだけでも、希望があるのなら。


「わたしは、創平さんを支えていきたいから。ごめん」


わたしが頭を下げると、泰生くんがぽつりと呟いた。


「あの人……俺のこと、本気で怖い顔で見てたよね」


顔を上げると、泰生くんは所在なさげで、どこか遠い目をしている。


「なんだか正気じゃないっていうか……鬼気迫るものがあって、制御できない感じだった。あれは蔵とか関係なく、沙穂ちゃん自身に執着してるようにしか見えなかった」
「わ、わたし自身?」


困惑した声で聞き返したわたしに、泰生くんは穏やかな眼差しを向けふっと寂しく笑った。


「俺、もっと早く生まれたかったな。沙穂ちゃんより早く生まれて、俺が救える立場になりたかった」


灯り始めた外灯が、肩をすぼめる泰生くんを照らす。
透き通るくらい白い横顔を見ていたら心がじんとした。寂しさが伝染したような、心もとない気持ちになる。


「泰生くん、ごめんね」
「ここで謝られるとなんか俺、二度も振られた気がするんだけど」


複雑な顔つきで泰生くんがポリッと頭を掻いたときだった。


「__奥様?」


わたしたちふたりの前で窺うような人影が動く。

声の方を向くと、越谷さんがわたしと泰生くんを交互に見た。特に泰生くんを誰何するような目でジロジロ見ている。


「こ、越谷さん! 創平さんは……?」


今日もここで仕事だったのかな。
わたしは周辺に創平さんがいないか探す。
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