俺様副社長に娶られました
わたしはすぐにピンときた。
あの神社で、創平さんの携帯の画面には女性の名前が表示されていた。


「親父の秘書の仕事優先で、いてもいなくても同じだったけどな」
「おじさまの……? じゃあ商業ビルにいらっしゃったのは」
「あれも親父の仕事でだよ。あのカフェバーは親父の肝いりで日本の定番カフェとして全国展開させる気で相当力が入ってるから、一番集客力のあるあの商業ビルの店舗にはよく顔を出している。今夜あのビルを所有している不動産屋と新しい都市開発について話し合う機会を得たんだ」
「そうだったんですか」


それで、創平さんとは別行動のときもあったんだ。

でも……。
ふたりの関係は仕事上のものだけなのか、という疑いはまだ残ってる。


「おふたりで、お食事をしたりしてるんですよね?」
「食事?」
「あの、料亭天川とかで……」


わたしのすぐ目の前で足を止めた創平さんは、考えるように目をすがめて首を捻る。


「無い。親父と行ったときに一緒にいたような気もするが」


思い出す間無表情だった創平さんは、質問をするわたしを不思議そうな目で見る。


「それがなんだ」


ふたりきりじゃなかったんだ……。


「いえ、その、わたしてっきり……」


越谷さんの創平さんに対する感情は、仕事上尊敬する上司に対する類のものだけじゃなかったように感じたけれど、それはわたしの勘でしかないし、軽々しく創平さんに話すことじゃない。


「あ、いえ、なんでもないです」


俯き加減で首を振ると、グイッと体を引っ張られた。
反動で、まるで体がバネみたいに収縮して前後するくらい、強い力だった。


「あっそ。じゃあもういいだろ、帰るぞ」
「へ⁉」


あっそ、って……。

適当すぎる言い草がすごい子どもみたいなんですけど……。


「これ、春限定の生酒も入ってますので、良かったら今夜の会合にどうぞです!」


創平さんに手を引かれて歩きながら、慎ちゃんに持たされた紙袋を目の高さで持ち上げる。
直売所を出ると、歩道脇に創平さんの車が停まっていた。

助手席の前で足を止めた創平さんは、わたしが差し出した紙袋を一瞥し、スーツのジャケットのポケットの中からなにかを取り出した。

すっかり暗くなった空の下、それは目を見張るほどまばゆく輝いた。
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