俺様副社長に娶られました
「ああ。返品はさせないからな」
「し、しないです! ずっと大切にします。ありがとうございます……」


深々と頭を下げてまた視界をじんわりと滲ませるわたしに、創平さんは特大の息を吐きこつんとハンドルに額を打ちつけた。


「離れ難いけど……、」


横目でちらりとこちらを見る、色気のある視線にゾクッとしたのも束の間。
体に弾みをつけた創平さんが、ギシッとシートを軋ませる。


「部屋で待ってろ」


耳元で吐息交じりに囁くと、涙が乾いたばかりのわたしの頬にチュッと口づけた。


「は、はい……」


声が上擦る。
体はシートに張りつけられたみたいにカチコチなのに、頬だけ上気して熱くなる。

創平さんが運転する車でわたしは先にマンションに帰った。
創平さんは、ちょうど会合に備えて直売所に北極星を買いに行こうとしていた矢先、越谷さんからわたしと泰生くんが実家に戻ったとの報せを聞いたそうだ。
それで、わたしが創平さんの元から去ったと早とちりしたらしい。

創平さんが焦ったり、勘違いする姿なんて今まで見たことなかったから、なんだかすごく新鮮だった。


「なるべく早く帰るから」


マンションの前で車を降りるとき、創平さんがわたしに言った。

でも大事な会合だし、早く帰れるなんてことはないのではないかと予測したわたしはシャワーを浴び、気もそぞろにリビングのソファに座る。

指輪は帰って来てからすぐに外した。
高価なものだし傷つけたらいけないと思い、ケースが無いので手持ちのアクセサリーケースに入れておいた。


「綺麗……」


アクセサリーケースの中をうっとりと眺める。

まだこれが現実だなんて、なんだか信じられない。


『全然。これでずっと欲しかったもんが手に入るなら、安いよ』


ずっと、って……。どういうことだろう?

眉間の皺が濃くなるほど考えている間にも、時計の針は回転し続け、ソファから立ち上がったり座ったりを無意味に繰り返していたとき、玄関のドアが開く音が聞こえた。

驚いて、肩をビクッと上下させた拍子に手元でバウンドしたアクセサリーケースを、ひやりとしながらテーブルに置く。

今夜はやけに早い……。
足音が大きくなってきて、わたしはピシッと姿勢を正して直立した。


「お、お帰りなさい!」
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