笑顔の行方
夏休み明けの小学生のように『行きたくない』と。

重い足を引きずるようにして、エレベーターホールに向かう。

「今回は何をやらかしたんだ?
まさか、寧々に手を出したとか?」

寧々の兄貴だというのに、洋介は俺と寧々の恋愛に寛容だ。

俺が寧々の兄貴だったら

こんな冗談、絶対に言えない。

「アホ。
仮にも、受験生だぞ。
おまけにおばさんと一緒に生活をしているのに
手なんか出せる訳ないだろう。
あのおばさんの事だ。
絶対部屋に、隠しカメラをセットしてるって!」

俺の力説に

「ありえるな。
お袋の事だ、各部屋につけてるかもな。
まぁでも、後1年で卒業だろう。
それまで我慢しなさいなぁ。」

そう、後1年で卒業。

……………………二人になるんだ。

正確には、後9ヶ月。

おばさんは寧々が卒業したら、本格的にパン屋を運営する為

洋介と同居して、嫁の彩ちゃんと仲良く働くと言ってる。

まぁ、本格的に働くかは………怪しいけど。

以前、商店街で洋介がパンを作り

おばさんが売っていた頃。

彩ちゃんが洋介の店で、アルバイトをしていた。

洋介は、真面目にパンを作っていたが

おばさんは働き者の彩ちゃんに甘えて、ほぼ遊び歩いていたらしい。

だから、本格的に店をするかは疑問だが。

どちらにしても、洋介と同居するのは確実だから………

…………………春には俺と寧々…………………二人になる。

寧々に不満も不安もない。

年齢が離れている以外、俺の自慢の彼女だ。

以前のように

『子供だから、手を離さないようにしないと!』

なんて頑なな思いはないけど。

二人になるのは………

やはりちょっと怖くなる。

…………………………もう、後には引けない怖さというか………。

寧々の恋愛は…………3歳から俺だけだと言っていた。

寧々の世界は、学校と家と俺。

…………………極端に狭い。

このまま何も知らずに、俺達だけの世界に囲っても良いのか?

ホントに、夢も見ないで

恋も知らないで…………後悔しないのか?

人の人生を背負うというのは、ホントに大変だ。

つくづくおばさんが、寧々を引き取った凄さを実感する。
< 102 / 143 >

この作品をシェア

pagetop