笑顔の行方
「あの、こちらでお世話になってます…………」

「あぁ、寧々の。
ちょっと待って下さい、今呼びます。」

俺の言葉を遮り、寧々を呼びに行く青年。

『何が寧々だ。
クソッ!』

イライラしながら辺りを見渡すと。

来るときにも思ったが

いかにも北海道だと思えるような、風景が広がる牧場だ。

右手には、放牧された牛やひつじ。

奥からは、馬の蹄の音も聞こえ。

犬に猫、鶏も見える。

ここが寧々の言っていた『子供牧場』なのだろう。

動物は多くないが、よく手入れされているのは素人目にも分かる。

ここには、老人ホームがあり

休日には、子供たちも遊びに来ると言っていた。

確かに

これだけイライラした俺ですら、微笑んでしまう

魅力ある場所だ。

研修場所としては、最高のシチュエーションだと思う。




「彰人君、お待たせ!」

二十日ぶりに顔を見せた寧々は、幾分日焼けしていた。

「おぅ!」

一瞬俺に向けた笑顔は………

「ありがとう。
直ぐに戻るって、果歩に言っといて。」と

後ろにいる、あの青年に向けられた。

おいおい。

何を言ってるんだ?

「おい寧々。
昨日電話で言っただろう。
今日は、迎えに来たって…………
俺と帰るぞ。」

俺との会話を聞いていたらしい青年が

寧々の伝言を伝えるために、行きかけていた足を止めて戻って来た。
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