笑顔の行方
『寧々さんの判断が早かったお陰で
女性も、もちろん寧々さんも無事です。
ただ、強く引っ張った時に絡まりあって転んでしまい。
頭を打っておられ、右手も骨折されてます。
病状の詳しい内容は、担当医の先生から説明があると思います。
…………寧々さんがむちゃをされたのは………事実ですが。
お陰で、尊い命が一つ救われました。
お怒りもあると思いますが…………。
勇気ある行動を誉めてあげて下さい。』

俺の顔が険しかったからだろう。

年若い刑事さんは、一生懸命寧々のフォローをしていた。

「ありがとうございます。
なるべく怒らないようにします。」

ペコリと頭を下げ、担当医の先生に説明を受けに行く。

ここでも、大したことはないが

頭なので、一応入院してCT検査をすると言われた。

それで異常が無ければ帰れると。

専門家が大丈夫だと言うのだから、ホントに大丈夫なんだろう。

分かっているはずなのに。

この薄暗く長い廊下を歩いていると。

3歳の俺が、母を亡くして歩いた廊下とだぶってしまう。

『寧々は、大丈夫。
目を開ける。』

病室のドアを開け、寧々の顔を見るまでずっと………。

心の中で、念仏のように唱えていた。
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