後輩くんは溺愛を隠せない
【夏樹side】
お酒の力で、思わず紗知先輩の好きなところを語ってしまった。
けして、酔っているからーーではない......。
名前だって、本当は苗字で呼ぶつもりだった。
なのに、顔を見た瞬間抑えが効かなくなり、名前で呼んでいた。
“紗知”ーー本当は、そう呼びたかったけれど、いきなりそんな失礼になる事はしない......だから、紗知先輩と呼ぶようにしたのだ。
「えっ......紗知先輩?」
俺の指導係にはなりたくなかったらしい紗知先輩。
何があったのか、俺にはよくわからなかったけれど、飲み切ったグラスを置いたあと、紗知先輩の身体がふらっと傾いた。
咄嗟に支えて、倒れるのを防ぐ。
だらんとする身体に、一瞬何が起きたのか分からなかった。
「ごめんね、黒瀬くん。沙知、お酒弱いから......寝かせといてやって」
北見さんの言葉を聞いて、初めて紗知先輩が寝てしまっている事に気づいた。
突然だから、倒れたのかと思ったーー。