後輩くんは溺愛を隠せない


【夏樹side】


お酒の力で、思わず紗知先輩の好きなところを語ってしまった。


けして、酔っているからーーではない......。


名前だって、本当は苗字で呼ぶつもりだった。


なのに、顔を見た瞬間抑えが効かなくなり、名前で呼んでいた。


“紗知”ーー本当は、そう呼びたかったけれど、いきなりそんな失礼になる事はしない......だから、紗知先輩と呼ぶようにしたのだ。



「えっ......紗知先輩?」



俺の指導係にはなりたくなかったらしい紗知先輩。


何があったのか、俺にはよくわからなかったけれど、飲み切ったグラスを置いたあと、紗知先輩の身体がふらっと傾いた。


咄嗟に支えて、倒れるのを防ぐ。


だらんとする身体に、一瞬何が起きたのか分からなかった。



「ごめんね、黒瀬くん。沙知、お酒弱いから......寝かせといてやって」



北見さんの言葉を聞いて、初めて紗知先輩が寝てしまっている事に気づいた。


突然だから、倒れたのかと思ったーー。

< 34 / 214 >

この作品をシェア

pagetop