後輩くんは溺愛を隠せない
「そうですね、俺のせいで遅くなっちゃったし......送りますね」
「夏樹くんは遅くならなくても送ってくれてるじゃない」
それはそうなんだけど。
紗知先輩と一緒に帰れるなら、いつでも喜んで着いていく。
ただ、今日は何だか理由をつけないと気恥しかった。
***
職場を出て、俺たちはいつもより遅い時間の満員電車に乗り込んだ。
「紗知先輩大丈夫ですか?」
普段なら、ゆったり並んでいられるのに、今日はぎゅうぎゅうだ。
背の高い俺は大丈夫だけど、小さい紗知先輩は埋もれそうになっている。
一応端っこにはいるけれど、紗知先輩との距離が近い。
「だ、大丈夫」
そうは言ってるけど、大丈夫じゃ無さそうだ。
「ドアが閉まります~」
車掌さんのアナウンスが鳴り、更に押される。
「す、すいません......」
俺は紗知先輩を守るように壁になっているつもりだけれど、その距離は1センチも空いていない。
つまり、抱きしめるようにくっついてしまっている。