婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「それにしても表と裏のギャップがあり過ぎですけどね」

「茉莉子はこっちの方が好きなんだろう?」

「えっ?」

 私、好きなんて一度も言った記憶ないよ?

 作り物の笑顔を浮かべているよりかは、無愛想で口が悪くても、本来の姿の方が人間らしい味があっていいとは言ったけれど。

 たまにこういう発言をするけれど、いまいち真意が掴めない。彼なりのジョークなのかな。

「表も裏もどちらもいいと思いますよ。お仕事は忙しいのですか?」

 さらっと流して話題を変えた。新さんは特に表情を変えないまま頷く。

「まあな」

 二十九歳という若さでアンシャンテリューの常務取締役を務めているのだ。彼の生活がどれほど多忙を極めるか、社長であるお父さんの姿を幼い頃から見ていた私には少なからず理解できる。

「無理しないでくださいね。といっても、難しいのでしょうけれど」

 新さんは表情筋をピクリとも動かさず静かに私の顔を見る。

 うるさいから余計な口出しをしないでほしいと思っているのかも。
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