婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 誰だろう? 宅配業者かな?

 軽い気持ちでドアホンのモニターを確認する。するとそこには見知らぬ若い女性の姿が映し出されていた。

 えっ、本当に誰? あきらかに保険などの勧誘ではなさそうだし。

 躊躇していると催促するようにもう一度チャイムが鳴らされた。

 無視するわけにもいかず、緊張しながら通話ボタンを押す。

「はい。どちらさまでしょうか」

「突然お伺いして失礼いたします。私、白石美麗と申します。新さんにお渡ししたいものがあるのでお邪魔したいのですが……」

 女性の名前を耳にした瞬間から、心臓がものすごい速さで不快な音を立てはじめた。

 この人が新さんの元婚約者……。

「申し訳ございませんが、主人は仕事で出ておりまして」

 必死に平静を装って対応したが声は微かに震えている。

「存じ上げています。玄関先で失礼しますので、奥様がよろしければ受け取っていただけないでしょうか」

 こう言われては、断ったらかなり感じが悪い印象を相手に与えてしまう。

「分かりました。少しだけお待ちいただけますか?」

「もちろんです。ありがとうございます」

 適当に言い訳をすればいいのに、元婚約者という彼女にライバル心を抱いてしまって、つい物分かりのいい妻を演じてしまった。
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