婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 その様子を静かに眺めながら心の中で悪態をつく。

 本気でそう思っていたら来ないでほしい。

 話している間に吐き気がやってきたら困るのでとにかく早く帰ってほしい。

「とんでもございません。わざわざありがとうございます。それで、渡したいものというのは?」

「先日フランスへ出かけた時にとっても素敵なワインを見つけたので、ぜひ新さんにも召し上がってほしくてお持ちしました。ほら、彼ってワインがとにかく好きでしょう?」

 満面の笑みで差し出された紙袋を受け取るとずしりと重く、中身がボトル一本だけではなく二本以上はあると推測できる。

 お酒が好きだと結婚してから知ったが、アルコールの中でもなにが一番好きかは聞いていない。

 確かにワインは飲むけれど、同じくらい他のお酒も飲んでいる。

 妻ですら知りえない、新さんの好みを把握するほどの深い付き合いがふたりの間にはあるとでも?

「そうですね。きっと喜ぶと思います」

 会話を広げたら長引くと思い、最低限の返事だけする。

 白石さんはどうしたいと考えているのか、にこにことした表情を崩さぬまま玄関先から動こうとしない。

 品物も受け取ったのに、どうして帰ろうとしないのかしら。

 仕方なくこちらから切り出そうと「それでは……」と言いかけた時だった。
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