婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「実は今日お伺いしたのは、奥様に折り入ってお話があったからなのです」

 可愛らしく小首を傾げながら「もう少しお時間頂戴できますでしょうか?」と、大胆なお願いをしてきた。

「どのようなお話でしょうか?」

 これ以上同じ空間にいたくないのに、ふたりきりで話なんて息が詰まる。

「新さんについてです。奥様にも関係のあるお話ですよ」

 意味深な物言いに心臓がざわつく。

 彼女の声音には有無を言わせない威圧感が含まれていて、促されるままに承諾してしまった。

 あたり前のように家に上がり込もうとする白石さんをやんわりと制して、近場のカフェで話を聞かせてほしいと提案する。

 私たち夫婦が暮らす空間に彼女を入れたくはなかった。

 何度か吐き気が襲ってきたが、そこは気持ちの問題なのか、いつものようにトイレに駆け込むほどではなくどうにかやり過ごす。

 カフェで白石さんはアイスカフェラテを注文し、私はさっぱりしたものしか口にできないのでオレンジジュースにした。ここでも大人と子供のような飲み物の違いに劣等感を抱いてしまう。

 どんどん気落ちする私をよそに、ドリンクを乗せたトレーを両手に持った白石さんは、颯爽と店内を移動して日当たりのいい窓際席を選んだ。
< 105 / 166 >

この作品をシェア

pagetop