婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「彼は結婚してからも愛人をつくると公言していますよね。愛のない政略結婚をするのだからそれは当然だと考えていますが、普通の女性からしたら理解しがたいと思います」

 返事ははなから求めていないのか、白石さんの言葉は止まらない。

「でも私は、彼のそんな掴まえどころのない人柄が好きなのです。愛想がないようでたまに見せる優しさや、飴と鞭っていうのかしら? それがたまらないといいますか」

 ふふふ、と楽しそうに笑いながら妻を前にして話す内容ではない。それに主旨についてもさっぱり理解できない。

 本当に新さんの話なの?

「そこで奥様に提案といいますか、お願いがあります」

「……なんでしょう?」

「私が新さんの愛人になるのを、受け入れていただけないでしょうか」

 一瞬、頭の中が真っ白になってなにも考えられなくなった。

「以前から新さんにも提案しているのですが、奥様を気にかけているようでなかなか首を縦に振ってくれないのです。新婚だから、一応気を使っているのでしょう。ああ見えて根はとても優しい方ですしね」

 余裕のあるゆったりとした動作でグラスを持ち、アイスカフェラテを口にする。まるで自分は間違った発言はしていないとでもいうように。
< 107 / 166 >

この作品をシェア

pagetop