婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「……はい。それで、つわりで体調が優れないので、そろそろ帰らせていただきたいのですが……」

「そうですか、それはおめでとうございます。男の子だったらいいですね」

 切り上げようとしているのは誰が見ても明白なのに、白石さんはまるで私の言葉が届いていなかったかのような話しぶり。

 しかも男の子だったらいいなんて。

 跡継ぎの問題があるからそう言うのは理解できる。だからといって他人の彼女があえて口にする言葉ではないと思う。

 わざと私の感情を煽るようにしているのかな……。

 口調は丁寧だし、表情からも悪意は感じられないから、素でこういう人という可能性も捨てき
れないけれど。

「そうなると、尚更新さんには愛人の存在が必要になってくるのではありませんか? 私は二番目でも構わないのですよ。新さんに愛してもらえるなら」

 楽しげに口元を緩める顔を見ていられない。

 こちらの常識では通用しない。頭がおかしくなりそうだわ。

 私と新さんの間には愛が存在しないと言っておきながら、自分は愛してもらえるというの?

 新さんからはっきりとした言葉はもらえていない。けれど、彼の言動からは少なからず愛情を感じ取っている。

 やっぱり私の思い上がりなのかな……。

 そこまで考えて目をぎゅっと強くつぶった。

 ここで流されて変な考えを持ってはいけない。しっかりしないと。
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