婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「すみません、ティッシュを取ってもらえますか」

 新さんは無言でテレビの横に置いてあるティッシュを箱ごと私の手元に置くと、一枚引き抜いて筋になって耳の方へ流れた涙を拭き取る。

「辛いよな。なにもしてやれなくてごめん」

 ベッドに横たわりながら首を横に振る。

「違うんです。こうして駆けつけてもらって、嬉しくて、安心したら泣けてきちゃいました」

 力なく笑うと、新さんは困ったような心配しているような、あいまいな表情を作った。

 お母さんの時もそうだったけれど、やっぱり心を許している人がそばにいるだけで気持ちが安定する。ひとりでいると意識がつわりの症状にばかり向いてしまうし、ふさぎ込むばかりだから。

 こんなにも新さんを好きになっていたんだ……。

 改めて彼は自分の中で大切で大きな存在なのだと再認識した瞬間だった。

「俺がもっと早く気づくべきだった」

「本人すらこの状況を理解していなかったのですから、それは難しいかと思います」

「……そうか」
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