婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 防音設備が整っているからか、産科のフロアにある個室にも関わらず赤ちゃんの泣き声はほとんど聞こえてこない。時折器材を運んでいる音が遠くから響いてくるだけで、ここだけ隔離されているような感覚に陥る。

 静けさの中漂うぎこちない空気に居心地が悪くなって、新さんにお願いしてテレビのスイッチを入れてもらった。

 白石さんとの一件以来、新さんへの接し方が分からなくなっている。不幸中の幸いか、つわりで寝込んでいたので会話も以前と比べたらぐんと減っていたので、これまでなんとか誤魔化してきたのだけれど。

「茉莉子は我慢強いよな。入院する状態になっても弱音を吐かない」

「そうでしょうか? 自分ではよく分かりません」

「もっと俺に甘えればいいのに」

 新さんの口から出てきたとは思えない言葉に目を丸くする。

「以前に比べたらかなり甘えるようになったと思いますし、これ以上頼ったら迷惑になるのではないですか?」

「基本的に頭が固い。あと、甘え下手過ぎる」

「そんな、けなさなくても」

「けなしてなんかいない。それが茉莉子のいいところだ。でも俺をもっと必要としてもらいたい」

 いつもより口数が多いうえに、思いを分かりやすく表すのも珍しい。
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