婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「だいぶよくなりました。ありがとうございました」

「それはよかった。退院してもらおうと思っているけど大丈夫かな?」

「はい」

「またなにかあったらすぐに来てくれていいからね」

 心強い言葉をもらえて退院後の不安材料も少なくなった。

 マンションから近かったのと、不測の事態に備えて大きな病院を選んだのだけれど、この病院にしてよかったな。

 部屋に戻るとソファに新さんが膝の上で手を組んで座っていて、驚きで「えっ!」と大きな声を出す。

「どうしたんですか」

「退院できると連絡をもらったから迎えにきた」

「よかったですね。支度が済んだらナースステーションに声をかけてから帰ってくださいね」

 まだ目を白黒させている私の横で、付き添いの看護師さんがにこやかに説明をする。新さんが
「ありがとうございました」と頭を下げたのでハッと我に返って、慌ててお礼を言った。

 ふたりきりになった瞬間に優しい力で抱きしめられ、閉じ込められた腕の中で背の高い彼を見上げる。

「お仕事は?」

「休みをもらった。今日くらいいいだろう」

「ありがとうございます」

 新さんが仕事をとても大切にしているのを知っているからこそ、私を優先したという事実が嬉しくて胸に顔を埋める。
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