婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「はい」

『どんな感じ?』

「まだ時間がかかりそうです。先生には日をまたぐ可能性が高いと言われたので、急いできてもらわなくて大丈夫ですよ」

『なにかあったらすぐに連絡して。いつでも電話に出られる状態にしておくから』

「分かりました」

 本当はすぐにでもきてほしいけれど、出産が明日になるのであれば今日きてもらうわけにはいかない。

 声が聞けたおかげで少し元気も出たし、気を取り直して陣痛を促すために身体を動かす。

 昼過ぎになり、もう一度先生の診察を受ける。

「まだ二センチってところかな。赤ちゃんも相変わらず上にいるね」

 読み通り明日に持ち越しそうな雰囲気になってきた。

 破水したらすぐ産まれるものだと思っていた。まさかこんなに大変だなんて。

 看護師さんから初妊婦は数日かかる場合もあると聞かされて気持ちが沈みそうになる。

 でも陣痛が起きている時は、赤ちゃんも苦しいのだと看護師さんが言っていたし。赤ちゃんが頑張っているのだから、私もめげてなんていられないよね。

 陣痛が強くならないのでついに促進剤を使用することになった。点滴を開始してすぐに痛みが強くなり、間隔も短くなる。

 それでも子宮口は開かず、やがて窓外が暗くなり夜を迎えても三センチにも満たないと言われて落胆する。
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