婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「うまく進まないね。この調子だとちょっと厳しいかな。破水していなかったらもっと待つんだけど、時間が経過すればするほど感染症のリスクが高まって母子ともに危険な状態になるから、帝王切開に切り替えたいと思うんだけど……大丈夫かな?」

 先生に労わるように優しく諭されて、なんとも言えない感情が込み上げて口を真っ直ぐに結ぶ。

 当たり前のように、みんなと同じ一般的な方法でこの子は産まれるのだと思っていた。

 帝王切開の可能性なんて一パーセントも考えていなかったし、赤ちゃんが産道を通っていく感覚を体験できないのだと、辛い現実をいきなり突きつけられて泣きそうになる。

 一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「よろしくお願いします」

 選択肢はひとつしかないのだから、ここで泣きごとを言ってもどうしようもない。

 無事に産まれる方法が帝王切開なら、それがこの子が選んだ道なのよ。

「旦那さんはこられそうなのかな?」

「連絡をすれば、一時間もかからないはずです」

「そう。じゃあ間に合いそうだね。うちは帝王切開の立ち合い出産は行っていないけど、産声は扉越しに聞こえるからね」

 そっか、立ち合いもできないのか。
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