婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 お産の時はあまりの痛みに人格が変わるとか聞いたから、びっくりしないでくださいねって話していたのを思い出す。

 新さんは、そんなの気にするな、ずっと手を繋いでいるからって言ってくれたっけ。

 新さんと一緒に赤ちゃん産みたかったなぁ……。

 もちろん悲しいだけでなく、麻酔を打ってお腹を切るという行為は恐怖でしかない。お母さんがそばにいてくれなかったら平常心でいられなかったかもしれない。

 新さんにはお母さんが連絡をして、私は手術に向けて着々と準備を進めていく。

 半身麻酔を背中に打たれ、あまりの痛みに我慢できず涙が筋となって頬を伝う。

「桜宮さん! 旦那さんこられましたよ!」

 もう手術直前なので新さんの顔を見られない。それでもすぐ近くにいるのだと分かったら、涙も自然と止まった。

 意識はあるけれど麻酔が効いているので身体の感覚はない。その中でお腹を切られていく感触があり、神様に祈りながらただひたすら天井を見つめていると、唐突に赤ちゃんの産声が響き渡った。

 産まれた……。
< 148 / 166 >

この作品をシェア

pagetop