婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました


 うつろな感じで目を開けると、お母さんとお父さん、桜宮のお義母さんとお義父さん、そして新さんが勢揃いしていた。

「よく頑張ったな」

 穏やかな表情をした新さんに頭をそっとなでられる。

 まだ麻酔が抜けきっていないのか瞼がすごく重くて、逆らわずに閉じたらきっとすぐに眠りの海に沈められるだろう。

 必死に抗っていると、「無理しなくていいから」と柔和な微笑みで諭された。

 なんだか新さんが優しい。……そっか、みんながいるから表の顔なのね。

 好青年の仮面を貼りつけている時は、普段が嘘のように爽やかで甘ったるいのよね。

 あ、でも、最近の新さんはいつだって甘いけれど。

「赤ちゃんかわいかったわ。元気な子が産まれてよかったわね」

 お義母さんの目が嬉しそうに細められている。

「育児は新にもしっかりやってもらって、茉莉子さんはお腹が早く癒えるようにしないとな」

 お義父さんは新さんの背中を力強く叩き、楽しそうに大口で笑った。

 みんな嬉しそう。よかった。

 両家にとって初めての孫だから、本当に多くの人に望まれて産まれてきた赤ちゃんなのだと、大役を果たした気分で全身からどっと力が抜けた。
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