婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「私たちがいたらゆっくり休めないわね。また明日、様子を見にきていいかしら」

 お母さんの言葉に目を薄っすら開けて頷く。みんなが出て行ってからは部屋に静かな時間が流れた。

「今日は泊まっていくから。安心して眠っていい」

「でも、着替えが」

 会社から直接病院へ向かったのでスーツ姿のままだ。窮屈な恰好で、しかもシャワーも浴びずに寝させるなんて申し訳なくてできない。

「明日、一度マンションに戻る」

「今から戻ってください」

「俺がいない方がいいのか」

「いてほしいですけど……」

「だったら帰らない。俺は子供よりも茉莉子が心配だ。お腹まで切って……」

 新さんは表情を曇らせて言葉を濁す。

 こんな顔をさせてしまうのが辛い。

「勝手に決めてしまってすみませんでした」

「決めたのは医者だろう」

「それは……そうですけど」

「茉莉子の身体に傷が残るなんて、どれだけ代わってやりたかったか」

 赤ちゃんが無事に産まれた今、違う不安に襲われている。

 それは、傷跡が見るに耐えなくて、新さんに引かれたらどうしようという思い。

 私自身、傷を確認するのが怖くてたまらない。
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