婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「……分かりました」

「早速練習してみるか?」

「練習もなにもないですよね」

 さすがにからかわれているのだと判断してむくれた顔を作る。すると新さんは表情も変えず
「残念」とつぶやいた。

 本当に残念って思っているのかしら。

「新さんにしてみたら簡単かもしれないですけど、私は、」

 言葉の続きは、突然塞がれた熱くて柔らかな唇の中に飲まれた。獣に捕食されているかのごとく荒々しくて激しいキスに、あっという間に身体の芯が溶かされて力が抜ける。

 背中に回されている頼もしい手に支えられながら、情熱的なキスを必死に受け止めた。

 私の唇を最後に軽くひと噛みして離れると、新さんは冷静な声で言い聞かせるように言う。

「できれば、こういう感じのキスで頼む」

「なっ……」

 全身の血が沸騰しているのではないかと感じるほど身体中が熱い。

「無理そうなら、他のキスにするか。例えば……」

 また強引に唇を奪われそうになって、声にならない声を上げてソファから転げ落ちそうになった。
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