婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 俺は彼女に、初めて会ったその日に染めた様子のない艶やかな黒髪を地味だとけなし、化粧っ気のない茹で卵のようなつるりとした色白の肌を、子供みたいで色気がないと悪態をついた。

 決して本心ではない。普通に綺麗な子だと思った。

 だから俺の暴言は裏を返せばどれも褒め言葉なのだが、茉莉子は言われたままに受け取ってむくれていた。

 思い返せばそんな姿も可愛らしいと頬が緩む。

 すでに大学を卒業してアンシャンテリューで働き始めていた俺からしたら、まだ高校生だった茉莉子は女性というより女の子。

 興味はあったし確実に意識はしていたけれど、最初の頃はただそれだけの感情だった。それがいつから女性として彼女を欲するようになったのかは自分でも明確に覚えていない。けれど、きっかけはいくらでもあったように思う。

 そのひとつに、鮮明に覚えている出来事がある。
< 162 / 166 >

この作品をシェア

pagetop