婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 茉莉子とお見合いをしたばかりの頃は、ショートスリーパーである俺でも身体の限界を感じるほど仕事が忙しく、毎日寝不足で、過労から熱を出すことも多くなっていた。

 それでも周りに迷惑をかけないように気丈に振る舞っていたし、実際俺の異変に気づく者はひとりもいなかった。ただ茉莉子だけは違った。

『会う度に体調が悪そうですね。これ、気休めですけど』

 いつもの食事会で、ふたりきりになった時に手渡された栄養ドリンクに心が動かされたなんて、一生口が裂けても言えない。

 母親にすら甘えられなかったのに、自分より六歳も下の女子高生に弱音を吐きたいと一瞬でも考えてしまったのだ。

 感情が大きく動いてからはとにかく大変だった。年月を重ねるごとに茉莉子は魅力的な女性へと変貌を遂げ、俺の心を惑わせ続けたから。
< 163 / 166 >

この作品をシェア

pagetop