婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「約束を破って政略結婚を強引に成立させた、自分勝手な男という印象を逆手にとって、強引に迫ったくらいには好きだった。そこまで気持ちを膨らませるのにどれほどの時間が必要だったか、察しのいい茉莉子なら想像つくだろう」

 黙り込んだ後、おずおずと口を開いて上目遣いに俺を見てくる。

「本当に、そんなずっと前から?」

「ああ」

「そう、なんですか……」

 俺の言葉を信じたのか、僅かに緩んだ口元からは嬉しさが滲み出ている。こういう素直な反応も彼女の魅力のひとつだと思う。

 夫婦になっても、母親になっても、茉莉子を好きな気持ちは増すばかり。

 俺の気持に彼女が追いつくことは一生ないだろう。

「そろそろ二人の時間がほしいんだけど」

 耳元で囁くと、かわいらしく肩を跳ねさせて困惑の色を浮かべた。

「幸真が起きないですかね」

「起きたら、幸真を優先すればいい」

「えっと、じゃあ……」

 最後まで聞かずに茉莉子にキスをした。唇から身体全体に幸福感が広がる。

 夜の茉莉子はいつだって幸真が起きるかもしれないとソワソワしている。それが母親というものだろう。

 だけどほんの少しでいい。俺だけしか考えられなくなるように、甘い夜を過ごせるようにと、今日もまた必死になっているのを不意に自覚して苦笑いがこぼれた。

 好きだよ、茉莉子。

 想いを込めて、柔らかな身体を優しく抱きしめた。
 


END
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