婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 言われた通りよく考えてみる。

 五年もの時間を費やしてきたのだ。婚約破棄を申し入れたら両家ともにショックを受けるだろう。

 もうすぐ東来百貨店のメインフロアに、アンシャンテリューの新店舗をオープンさせる話もまとまっている。それなのにアンシャンテリューとの関係が悪化するかもしれない。

 東来百貨店社員たちの行く末についてもそうだ。みんなが幸せになるには結婚を受け入れるべき。

 結局、今さら私ひとりが拒否しても縁談を破棄できない状況じゃない。

 全部分かっていて直前まで私を騙していたんだわ。ずるい。

 逃げ場を失って絶望感が全身を包み込む。たまらず深くて重い息を吐いた。

「そんなに俺が嫌いか」

 問いかける新さんは感情が読み取れない表情だった。

 私に嫌われていると思っていたのだと知って少しばかり驚く。

 勘違いさせるほど失礼な態度を取っていたかしら? そんなつもりは一度もなかったのに。

「別に嫌いではないです」

 好きでもないけれど。
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