婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 向かい合って指輪の交換を済ませると、お決まりの台詞が無情にも放たれる。

「それでは、誓いのキスを」

 私とは二十センチ以上の差がある、百八十センチを超える高身長の新さんを見上げる。

 長い腕が伸びてきて、純白のベールに触れた。

 ベールを上げることで花嫁を守るものはなくなるので、ベールアップには〝これからは自分が守る〟という花婿の決意が込められているらしい。

 また、遮るものがなくなるので、〝なにも隠さず幸せな家庭を築いていく〟そんな意味も含まれているとか。

 どちらも私たちには相応しくない。誓いの言葉と同様に、神様の前で嘘ばかりついている。

 視界が開けて新さんと視線がぶつかる。恐ろしく整った美しい顔がゆっくりと近づいてきて、唇に熱くてやわらかなものが触れた。

 心臓が小さな音を立てる。

 私のファーストキス。まさかこんな形で迎えるなんて。

 ゆっくりと離れた顔をまじまじと見つめると、新さんはわずかに口元を緩めた。

 私たちが幸せであると、疑うべくもない盛大な拍手が沸き起こる。

 キスをするのは頬でもいいってウエディングプランナーさんは言っていたのに。

 新さんにだけ分かるように、不服の気持ちを込めて恨めしい目を向ける。すると興味が無さそうにふいっと顔を背けられた。

 こんな時に意地悪しなくてもいいのに。

 こうして私は、笑顔の仮面を被った無愛想な男の妻となった。

 
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