婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 新さんは私をジッと見つめたまま言葉を待っている。ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

「いつもシャツとかだったので、こういう服は落ち着かないのですが」

「慣れろ。それに似合っているからこっちの方がいいだろう」

 頑張って訴えてみたものの、毅然たる態度の前では意味がなかった。

 しかも似合っているって……。

 不意打ちで褒められて激しく動揺する。

「俺もシャワーを浴びてくる」

 新さんが出て行ってすぐに、ふたり掛けのふかふかなソファで体育座りをして縮こまった。

 人の目がないのだから私に気を使う必要がない。

 だからさっきの言葉は本心だと思っていいんだよね?

 急にどうしたのだろう。疲れすぎて頭がちょっとおかしくなっちゃったのかな。

 それでも嬉しかったから、またボタンを留めようとは思わなかった。

 私ってちょろいなぁ。こんなだから結婚話も簡単に丸め込まれたのよね。
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