婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 ふう、と息をつく。

 お洒落なウッド調の時計を見やると、時刻は二十時を回ったところだった。

 都心部にそびえ立つ地上五十二階建てのタワーマンションの、四十二階が新さんの所有する部屋だ。

 一軒家である実家でずっと暮らしていたので、人生初のマンション、しかも超高層という環境に密かにわくわくと胸を弾ませている。

 二十畳を超える広々としたリビングダイニングを中心に、ぐるりと囲むようにキッチンや洋室、大型の納戸が設置されていて、団らんしやすいように設計された間取りに好感が持てた。

 結婚前からすでに新さんがひとりで暮らしていた場所なので、家族との触れ合いなど関係なしに選んだのだろうけれど。

 三部屋ある洋室は書斎、ふたりの寝室、使用されていない部屋がひとつとなっていて、空き部屋があるなら私に使わせてほしいとお願いしたら、将来の子供の部屋だからと断られた。

 子供か……。

 誰にもなにも言われていないけれど、後継ぎが必要なのは重々承知している。

 でも過去に恋愛経験がない私にとって、それはあまりにもハードルが高い。
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