婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「よいしょっと」

 身体を起こして大きく伸びをする。

 考えてもどうしようもないことを考えるのはやめよう。

 もう自分の家なのだから好きにしていいと言われているので、遠慮なく冷蔵庫を開けて中から冷えたミネラルウォーターを取り出す。他にも炭酸水やビール、牛乳や野菜ジュースなどたくさんの飲み物がストックされている。

 それに比べて食材はほとんど入っておらず、見当たるのは酒のつまみになりそうなものばかり。

 お酒が好きなのかな。

 思い返してみれば、食事をする時はいつもアルコールを口にしていたような気がする。

 彼の好きなものも嫌いなものも知らない。

 これからは私が食事を用意するのだから、アレルギーなども含めて聞いておかなくちゃね。

 新生活について思案しながらグラスに水を注いでいると、リビングの扉がガチャリと開いた。

「えっ」

 リビングを出て行ってからまだ十分くらいしか経っていないのに。

 上半身裸の新さんが、濡れた艶やかな黒髪をタオルで雑に拭きながら入ってきた。
< 26 / 166 >

この作品をシェア

pagetop