婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 普段はきちんとセットされている髪が下りていて、毛先から落ちた水滴が綺麗な首筋を伝う。

 いつもと違う雰囲気は、初めて会った人のように感じ、胸がドキドキして落ち着かない。

「俺のも入れて」

「は、はい」

 お願いだから今すぐ服を着てほしい。

 お父さんの裸ですらほとんど見た記憶がないのに、新さんの裸なんて刺激が強すぎるよ。

 グラスに水を注ぎ終わるのと同時に新さんがそばまでやってきた。グラスを手渡しながら気を紛らわそうと話しかける。

「早くないですか?」

「長い時間風呂に入ると体力が奪われるからな」

「今日は本当に疲れましたからね。でもだからこそ、ゆっくりと湯船に浸かった方が、疲れが取れるんじゃないですか?」

「別にたいして疲れていない」

 私なんて慣れないドレスを着ていたから変に力が入ってしまい、身体のあちこちが痛くてしかたがないのに。

 新さんは水を飲み干してグラスを静かに置く。

「疲れるのはこれからだろう? そのために風呂なんかで無駄な体力を使いたくなかっただけの話だ」

 意味がすぐに理解できなくて首を傾げる。
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