婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「もしかしてこれからお仕事ですか?」

「そんなわけないだろう」

 私としては長風呂するよりもこの会話の方が疲れる。もっと言葉数を増やして、私にも理解できるように話してほしい。

 ……もういいや。

 考えるのを放棄して水をゴクゴク飲む。すると新さんは私の手をグラスごと掴んで顔からどけると、流れるような動作で唇を寄せた。

 あまりに突然で、頭が真っ白になる。触れたのはほんの一瞬で、すぐに熱は離れていった。

「茉莉子はどこまでもお子様だな。結婚式を終えた夫婦が初めて迎える夜に、やることなんてひとつしかないだろ」

 息をするのがやっとで声が喉を上がっていかない。

「これくらいで真っ赤になっていたら、この先持たないぞ」

 さっきまで今夜は結婚初夜を迎えるのだろうかと考えて、覚悟だってできていると思っていたのに。

 触れるだけのキスをされただけで、恥ずかしくて身体が硬直してしまった。

「おい、いつまで固まっているんだ。さっきだってキスしただろう」

 キスだけじゃない。目の前には男性の裸がある。惜しみなくさらけ出された細い身体に浮かび上がる腹筋に目がいってしまって、心臓が口から出てきそうなほど大きく跳ねた。
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